夕霧堂のどうでもいい話

 この世にはどうでもいいものというものが腐るほど存在する。
今回とある屋敷にて起こった事件もそのようなもののひとつである。

 発端は年の頃16歳程度の女性が部屋の扉を開けて開口一番に
「というわけで私はミス研というものに入りたいのです」
などと口走ったことから始まる。
 勿論言われたほうは「……は?」とただ唖然とするしかない。

 この突拍子も無い発言をした方が妹の春菜、されたほうが姉の夏樹である。
 夏樹はリビングのテレビで今日買ってきたアニメのDVD
(天使が釘バットで主人公の男の子を殺したり生かしたりする話でちなみに舞台は埼玉らしい)
を見ていたところだった。
 見ていたアニメが丁度盛り上がってきたところだった
(主人公の男の子が未来から来た女の子天使に殺されそうになったところを
やはり未来から来た別の女の子天使に殺される、という一言で説明するのはなんとも難しい場面が展開されていた)
 ところで意味不明な発言をされ水をさされた形となったわけでこれは世の中に大量に存在する寸止めエピソード
(例えば主人公の遺伝子を狙って三人程度の女の子が主人公を誘惑したり
主人公が死んだり生きかえったり魔法が使えたりタイトルが平仮名四文字だったりするような軽小説とか
良家の娘さんが許嫁であって紆余曲折あって同じ敷地内に住むことにはなるのだが
そこから先に一歩も進まないことがまるでそれが狙いであるかの如く語られる上
2回に渡って違う放送局でアニメ化されるなどするがそれにしても桃井はる子浮きすぎだろあの声とか
思われていたりいなかったりする漫画とか)
と比べて遜色ないレベルでタチが悪い。
 とりあえず夏樹は見ていたアニメのDVD
(天使に天使と思えないような名前がついていたり主題歌が当然のように相当電波だったり舞台が埼玉だったりする)
を停止、しかる後に春菜に色々と問い詰める次第となったのだが。


「まず『というわけで』の部分の説明をしてもらいましょうか」
 ちなみに春菜の口から「ミス研」という言葉が出たのは生まれてこのかたきれいさっぱりなかった。
当然ミス研に入りたいと思い立った理由がわからない。
「それはこちらの本を読んでいただければきっと理解できるでしょう」
 そう言って春菜が取り出したのは最近話題のミステリ小説(オビになんたら賞大賞受賞とか書いてある)
 厚さはそれなりでそう簡単に読めたものではないことはこれを読んでいる聡明な皆様には理解できるだろう
(最近は凶器になるミステリ本がえらく増えたものだ。
よって窓から投げ捨てる時は外に人が居ないかどうか確かめよう。I can fly!! じゃ済まされないぞ♪)

ともあれ埒があかないからさっさと説明してもらいたいものだ、と思うのが人間の常
(そういう時に限ってこんな地の文が延々と続くのもまた人間の常)
 その思考は夏樹も同じ。
 ここで夏樹が件のミステリというものを読みはじめてしまうとこの文章を寄稿した冊子がありえない厚さになり
(この文章は埼大ミス研さんの「ぷちみすしにあ」に寄稿したものである。
こともあろうかこのような文章がミス研の会誌に載ってしまうことが今回最大のまさかのミステリーだと思うがどうか)

ミス研メンバーがそのような冊子を手にしたとしたら当然殴打による殺人事件が巻き起こり
適時被害者が出てしまうのでやめておく。
 決して筆者が面倒だからとかこんな書き出しの文章を締め切りの当日早朝に書いているからとか
流石に前半飛ばしすぎてここらでネタが切れてきたとかそういったやましい理由ではない。決して。
 そういえば件のといっても人面牛の話ではなくそれはにんべんうしの聞き間違いでありそれならば牛面人などどうかといったらそれはミノタウロスとかその辺になってしまいそれはまさにギリシャ神話の領域となってしまう上ポセイドンの心の狭さが浮き彫りとなるのみであるためここでは割愛するがその中に出てくるダイダロスという名前がそこはかとなくロンギヌスと似ているなとか思ってしまう人がいるかもしれないおっとこれはいけないぞ最近じゃエヴァのパチンコ機が登場して40過ぎ50過ぎのオジサンオバサンすら「ほらオニイチャンロンギヌス出たわやったじゃない確変よ」などという時代になってああ世間は変わったなと思う昨今いかがお過ごしでしょうかとここまで句読点なしでズラズラと書けば読みずらいことこの上ないだろうからさっきさりげなく書いた暴言もきっと忘れてもらえたことだろう。

「そんなの読んでる暇ないない。
せっかくDVD(天使が中略舞台が埼玉)がいいところだったんだからその本の内容かいつまんで説明しなさい」
 春菜の差し出した本にはちらりと一瞥した程度である。
夏樹はあまりミステリ好きでなく、それは見ていたDVD(天使が中略埼玉)から察することができる。
「そうですね、まずこの主人公の男の子が常人では考えられないような身体能力を発揮して
建物から建物を飛び移ったり凶器を使って挑んでくる犯人に果敢にも素手で挑んでこれを凌いだりします。
また主人公に好意を持っていると思われる女性もまた主に電脳系で人間業と思えないスキルを持っています。
更に主人公に付きまとう女性がもう一人いまして
この人が暴虐の限りを尽くす上法律などどこ吹く風で好き勝手な行動に出るのです。
当然ゲストキャラはこれを凌駕するような特殊能力を備えておりこれはもうすごいことに――」
 興奮してまくし立てる春菜をさえぎるようにして夏樹が口をはさむ。
「とりあえずよくわからん話だということはよくわかった
……けどそのよくわからん話を読んで何故ミス研に入りたいと思ったのよ?」
「それはもうミス研というとミステリを研究するわけですから当然ミステリに詳しくなることができます。
そうすればいずれは私もそのような技能を身に付けてですね」
「別にミス研に入ってもそんな技能身につかないと思うけど……」
「更にですよ、たとえ破壊の限りを尽くしたり人を殺したりしても
ミス研なら何事も無かったかのように生活できるのです。これはすごいことです」
 もはや小説と現実の区別がついていない。これが現代情報化社会の問題点である。
 よって現実社会においてそのような妄想を膨らませるような腐女子を大量生産する元凶ともなった
アニメ化の際には既にスポーツをやっているのか天下一武闘会をやっているのか区別が難しい状態であった
テニス漫画の作者は腹を切って死ぬべきでありどこぞの黄色いポスターでお馴染み唯一神が
地獄の火の中に投げ込む者であるようなないような。
「おおこれはすごい……じゃなくて。ミス研じゃそんなことやらないって。
そもそもミス研っていうものがわかってないじゃない」
 ミステリよりもアニメDVD(いい加減全略)に興味がある姉に言われて気に障ったのか
春菜はやや腹を立てた様子で夏樹を睨みつけた。
「ではお姉様が言うミステリとは一体どのようなものなのですか」
 この妹の発言を受けて夏樹は腕を組み自信満々こう言い放った。
「まずバナナを箱単位で食べられるようになるでしょ、それからスタンドやカップリングについて
熱く語れるようになるの。あとは音ゲーがうまくなったり麻雀がうまくなったり。
ミス研なんだから演劇がうまくなったりするのは当然よね」
「それはそれで……いいような気がします」
「しかし欠点として高確率で単位が取得不能となる諸刃の剣。初心者にはおすすめできない」
「……とりあえずミステリについて勉強して出直したほうがよさそうですね……」
 ミス研に関してもミステリに関しても全く知識を持ち合わせていない姉妹なのだったが
何故かこの姉妹は昨今のミステリの趣旨からあまり外れていないように思えてくるのが
人間のサガといったものである。そもそもサガとカタカナで書くと昔一世風靡したゲーム
(チェーンソーで神がばらばらになるという斬新な世界観が堪らない)
を彷彿とさせるが本編と全く関係ないので割愛するもののこの時代は名作が多いので
適時星をみたりかりうを飲んでみたり「ゆりだぬす」にとつぜんであってみるのもいいかもしれない。


 このようにこの世にはどうでもいいものというものが腐るほど存在する。
そもそもロクな説明も無く登場した姉妹
(苗字は夕霧、これもどうでもいい)
と取ってつけたような設定
(ミス研の冊子だからミステリという単語を入れてみようという短絡思考、これもどうでもいい)
で飾ったこの小説のようなそうでないようなものがまずいい感じにどうでもいい。
 またそんな文章が冊子に載っているということが今のところ一番ミステリに近いが
そもそも今回はミステリを書いているわけではないのにそんなところでいかにもこじつけたように
ミステリという単語を持ち出すのもまたどうでもいい話である。


 世の中「どうでもいい話だが」で始まる話というものは多々あるが実際蓋を開けてみれば
どうでもいいどころか語り手本人にとっては相当重要な事項であることが増えてきた昨今、
あえて本当の意味での「どうでもいい話」に収めたところでまた次回。
(と書くと連載のように見えるのが不思議である)

この本作は
埼玉大学推理小説研究会会誌『ぷちみすしにあ』(2005年3月24日刊行)
にて掲載された「どうでもいいもの」に加筆修正を加えたものである

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